第12回 遊彩会展を開催します。 4月28日〜 於山梨県立美術館詳細はこちら

《 鹿の記憶 》 

個人蔵

《鹿の記憶》 M10    2017


 8年程前の秋。しおん( 飼い犬 )と朝の散歩中ここまで来たとき、どこか近くで慌ただしい物音がしてそちらを見ると、なんと鹿が網にひっかかってもがいている。画面中央、土手の終わったあたり、若い牡鹿だった。林から出てきて、土手上の牧草地へ飛びあがろうとしたのだろうが、ここから左側はそれまでより1mほど高くなっているのに気が付かなかったのだろうか?どうしよう?とふと思ったが、とにかく近くに行って状況を見てみることにして、しおんを畑のはずれの杭に繋いで近づいていった。私が近づくと、鹿は怖がってピーピーと鳴いてもがいた。角の枝分かれが1つしかない若い雄だった。網の絡まりも案外複雑ではなさそうで、これは外せるな、と思い、絡まった網をほどき始めた。怖がってピーピーなく鹿を間近にして、こんなに野生に近づいたのは初めてだし、だいいち角を握ってる。目が大きくて長いまつ毛が印象的だった。

 半分ほど解いた時、突然右から白い塊が鹿にぶつかってきた。鹿の大きな悲鳴と同時に目に入ってきたのはしおんだった。鹿の後ろ足に噛みついて唸り声をあげている。リードを思いっきり引っ張っても、鋭い牙は後ろ足に噛みついたまま放そうとしない。頭を叩いたり蹴っ飛ばしたりしてやっとの思いで引き離した時には、鹿の後ろ足は無惨にも折れてぶらぶらしていた。あと半道中で解けそうだった網の絡まりは、絶望的なくらいこんがらがってしまっていた。たとえ刃物か何かで網を切り刻んで開放したとしても、足の折れた鹿は野生では生きていけまい。畑の方へ目をやると、しおんを繋いでいた杭は倒れていた。

 翌日そこへ行ってみると、網はズタズタに破れ、路面には血を洗い流したあとがあった。この作品を描きながら、鮮明に思い出した出来事。


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